江戸時代の1両は今のいくら? 3つのものさしで換算してみた

江戸の町にそびえる小判と見つめるハシビロコウ

新十両昇進——
千両役者——
大判小判がザクザク——

このように江戸の世の通貨にまつわる例えは枚挙にいとまがないが
我々はどれほど理解しているだろうか?

今回は江戸の通貨事情を紐解いてみよう――。

(※今回の通貨事情は江戸中期~後期の貨幣価値をもとに算出しています)

💡【この記事の要点まとめ】💡

🔍そもそも1両ってなに?
🔍お金って3種類あったの?(三貨制)
🔍結局1両っていくらなの?

やっぱり両が好きな二人(はじめての方へ)

後輩K:新十両は言い過ぎだが、新弟子検査くらいは余裕で通りそうな
身長185㎝、体重100㎏超えの巨漢。

けだま。;本業と副業。両取りを狙うナイスミドル。現状、一兎も虻蜂も何も取れていない。

車両の『両』とお金の『両』

さーせん!遅刻しましたっ!!

遅い!タイムイズマネー!!お前の遅刻のせいで俺が被る経済的損失を考えたことあるのか?

いや、違うんっすよ!間に合うタイミングだったんですけど、駅のホームに着いた電車がいつもの10両じゃなくてまさかの6両編成!

おかげで電車の止まらない場所でボケっとスマホいじくってた俺はまんまと遅刻って訳っすわ!

車両の編成が違うとか、下手な言い訳をするな。

だがな、たまたま今回の話は江戸のお金『両』の話だ。

へー!!今日も今日とて、俺のごっつあんゴールの才能がほとばしってるっすね!!

車両の『両』とお金の『両』が共通してるとは!

全然違うぞ。
車両の両は車の両輪の意味。お金の両は古代中国の重さの単位から来てるんだ。

まあ、それはどうでもいい。ところで、お前は小判ってどういうものか分かるか?

さあ…?皆目。
猫が持っててもしょうがないってことぐらいしか…。

🔍小判1枚、今のいくら?🔍

小判1枚が1両ってことが基本だ。現在の貨幣価値で○○円です。って明快に答えられたらどんなに楽だろうか?
そもそもそんなに簡単に答えられたら、この記事書く必要もないけどな(笑)

目次

まず1両って何?(ここだけ押さえればOK)

ここからが本題。1両がいくらか考える前に、まず「1両って何?」というところだけ、軽く押さえておきましょう。難しい話は置いておいて、まずはここからお話します。

小判1枚が1両、その下に「分」と「朱」がある

はじめに、時代劇でおなじみの、あの楕円形の金色の貨幣が小判で、小判1枚が1両になります。

そして1両より細かいお金もありました。単位は「分(ぶ)」と「朱(しゅ)」。1両は4分で、1分は4朱だから、1両は16朱になります。つまり、1両を4つに分けたものが1分、その1分をさらに4つに分けたものが1朱ということです。

実際に、一分金や一朱金という小さな金貨もありました。ここでは「1両の下に分と朱がある」とだけざっくり知っておいてください。

実はお金は3種類あった(三貨制)

もうひとつ、押さえておきたい事実があります。江戸時代のお金は、金(きん)だけじゃなかった。金・銀・銭の3種類が、同時に使われていた。これを「三貨制(さんかせい)」と言います。

素材もルールも別物の3つのお金が、同じ世の中で動いていたわけで、詳しく語り始めると、それだけで1本の記事になってしまいます。今回は「3種類あった」とだけ覚えておけば十分でしょう。今回の主役は、その中でいちばん有名な金のお金、つまり小判の話ですから。

3種類のお金の詳しい話は、また今度。

小判が何ぞや?を押さえたところで、実際に小判握りしめて江戸の町に買い物に出かけよう!!

お昼休みはウキウキショッピングっすね♪

結局、1両っていくらなの?

ここまでで「1両は小判1枚」ということが分かりました。それでは本題です。1両は、今のお金でいくらになるのでしょうか。

先に結論を言ってしまうと、「何で測るか」によって答えが変わります。今回は、日本銀行金融研究所の貨幣博物館が紹介している考え方に沿って、次の3つのものさしで計算してみます。

  • お米
  • お蕎麦
  • 大工さんの手間賃

なお、当時の物価は時代によって幅があります。ここでの数字は、あくまで江戸時代の中ごろから後期にかけての「目安」だと思ってください。

お米で換算すると

まずはお米です。江戸時代の中ごろ、1両で買えるお米の量は、おおよそ1石(こく)とされていました。1石は約150kgです。

今のスーパーで売っている5kg入りのお米に直すと、ちょうど30袋分になります。5kgのお米が1袋2860円(令和8年10月農林水産省・米の店頭価格調査より)だとすると、30袋で85,800円。お米で測ると、1両は約86,000円ということになります。

お蕎麦で換算すると

続いて、江戸っ子の定番、お蕎麦です。当時のかけ蕎麦は1杯16文ほどでした。そして江戸後期の相場では、1両がおよそ6,500文にあたります。

つまり、1両でお蕎麦が約406杯食べられる計算です。今のかけ蕎麦が1杯744円(総務省統計局「小売物価統計調査」より)だとすると、406杯で302,064円。お蕎麦で測ると、1両は約302,000円になります。

大工さんの手間賃で換算すると

最後は、人の手間賃です。江戸時代の中ごろ以降、1両は大工さんの約23日分の手間賃に相当したとされています。

「そんなに貰ってねぇ!」って声が聞こえてきそうですが(笑)公共工事設計労務単価を参考にして、今の大工さんの日当が30,331円(国土交通省・「公共工事設計労務単価」より)だとすると、23日分で697,613円。人件費で測ると、1両は約70万円になります。

基準が違うと、こんなに金額がバラバラ

3つの結果を並べてみましょう。

  • お米で測ると、約8.6万円
  • お蕎麦で測ると、約30万円
  • 大工さんの手間賃で測ると、約70万円

同じ1両なのに、ものさしを変えただけで、これだけ金額が変わってしまいます。お米みたいな「素材」「モノ」の値段と、蕎麦屋さんの打った「蕎麦」や様々な建造物を作り上げる「大工さん」など。人の「手間賃」とでは、江戸時代と今とで、値段の釣り合いが大きく変わっているからです。

つまり、「1両は今の◯◯円です」と一つの金額にまとめることは、そもそも難しいのです。「そんなに簡単に答えられたら、この記事を書く必要はない」と最初に言ったのは、こういう理由だったんですね。


なんでこんなにバラバラになるの?

えーっ!!全然価値が、違うじゃねーか!!随分と米だと安いっすね!!
当時のお米はお買い得ってことっすか?

いや。真逆だ。当時は人件費が恐ろしく安かったんだ。

…つまり、こういう事だな。

ここまで見てきたとおり、同じ1両でも、ものさしによって金額が大きく変わります。その理由は、「お金の価値が変わった」というより、「何が高くて、何が安いか」が、江戸時代と今とで入れ替わっているからだと考えられます。

江戸時代は「モノが高くて、人の手間は安かった」

具体的な数字で見てみましょう。1両で、お米は約150kg買えました。一方で、大工さんの手間賃は約23日分です。つまり、大工さんが1日働いて得られるお金で買えるお米は、150kgを23で割って、およそ6.5kgになります。

これを今の数字に当てはめてみます。お米は1kgあたり約572円(5kgで2,860円)です。大工さんの日当は30,331円ですから、1日分で買えるお米は約53kg。江戸時代のおよそ8倍です。

江戸時代は機械がなく、お米を作るのも、運ぶのも、人の手に頼っていました。そのため、モノのほうが相対的に高く、人の手間賃のほうが安かったのでしょう。

今は「モノは安く、人の手間は高い」時代

現代はその反対です。農業の機械化や、工場での大量生産、物流の発達によって、お米をはじめとするモノは、作る手間も運ぶ手間も大きく減りました。一方で、人が直接かかわる仕事は、機械で置き換えにくいぶん、値段が下がりにくいと考えられています。

お蕎麦の結果が、お米より大きく出たのも同じ理由でしょう。お蕎麦は外食で、料金には、作る人やお店の人の手間が含まれています。素材の値段で測るお米より、人の手間が入っているお蕎麦や大工さんの手間賃のほうが、今の感覚では高く出るわけです。

もちろん、お米が人の手間が掛かってないって意味じゃないぞ?

お米が出来るまでに農家の皆さんの88のご苦労が詰まっているんだからな。
お前もご飯粒一粒たりとも残すんじゃないぞ?

結局、1両はいくらと言えばいいのか

ここまでの話をまとめると、1両は、お米で測れば約8.6万円、人の手間賃で測れば約70万円です。この間のどこかを選ぶことはできても、「1両は今の◯◯円です」と、一つの金額に決めてしまうのは、危ういと言わざるを得ません。

もし、イメージをひとつだけ持ち帰るなら、「1両は、大工さんがざっくり1か月働いた分の手間賃」というのが、いちばんつかみやすいかもしれません。時代劇で小判1枚が出てきたら、「今の数万円」ではなく、「ひと月分の稼ぎ」くらいの重みで見てみると、場面の印象が変わってくるはずです。

ただし、ここまでの話には、一つ前提があります。この目安は、あくまで江戸時代の中ごろから後期の話だということです。

まとめ:次はもっと江戸の沼へ

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。今回の内容を、あらためて整理しておきましょう。

💡【要点の答え合わせ】💡

🔍そもそも1両ってなに?:小判1枚が1両で、1両は4分、16朱にあたります

🔍お金って3種類あったの?:金・銀・銭の3種類が、同時に使われていました(三貨制)

🔍結局、1両っていくらなの?:お米で測ると約8.6万円、お蕎麦で約30万円、大工さんの手間賃で約70万円と、ものさしによって大きく変わります

「1両は今の◯◯円」と一つに決められないところが、江戸のお金の面白いところでもあります。時代劇で小判の話が出てきたら、「大工さんがざっくり1か月働いた分」という重みを思い出してみてください。場面の見え方が、少し変わるかもしれません。

幕末には、1両の価値が大きく変わりました

今回の目安は、江戸時代の中ごろから幕末以前のものです。幕末になると、物価が急激に上がり、1両の価値も大きく変わっていきました。お米の値段が、10年ほどの間に約6倍になったという資料もあります。(小野武雄『江戸物価辞典』より)

この激動の時代に、お金の問題と向き合った人物の一人が、小栗忠順(おぐり ただまさ)です。気になった方は、こちらの記事もどうぞ。

次回予告:銀は「重さ」で量るお金

今回は、金のお金の話だけで1本になりました。でも、三貨制の話には続きがあります。

たとえば、銀は、小判のように枚数を数えるのではなく、重さを量って使われていました。金・銀・銭は、どう使い分けられていたのか。江戸の人たちは、どうやって両替をしていたのか。江戸のお金の沼は、まだまだ深いです。

その話は、また別の記事で。

【参考資料】
・日本銀行金融研究所貨幣博物館(お金の歴史に関するFAQ)
・小野武雄『江戸物価辞典』
・農林水産省・米の店頭価格調査
・総務省統計局「小売物価統計調査」
・国土交通省・「公共工事設計労務単価」

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