——水の惑星、地球——
地球上の7割を占める海を悠々と泳ぐクジラ。
クジラのことを調べれば調べるほど彼らはとても変な生き物って事を知りました。
クジラのちょっと面白いあれこれについて、地球上残り3割でせせこましく生きている私、けだま。(と後輩K)が解説します。
クジラのように悠々と雄大な二人(はじめての方へ)

後輩K:社会通念も先輩の𠮟責もまるで意に介さない、ゆとり世代。
唯我独尊で社会の波を悠々と回遊する。



私(けだま。):色々と責任を抱えている氷河期世代なのに、実益を伴わないブログ運営に没頭してるブロガー。ブログ記事作成に溶ける作業時間はまさに雄大。
イルカ(居るか)?生物学的には居ないんです



よし、来たな。最初になぞなぞから始めようか?
問題:地球上の哺乳類の中で一番『ながいき』なのはなーんだ?



うーん…。
分かった!ゾウガメ!!
いや、待って!!ありゃ爬虫類だ。
んじゃ、ニンゲンっっ!!



ブッブー―!!正解はアカボウクジラ。
彼は一度呼吸すると次の呼吸まで222分も息を止める事が出来るらしい。
ちなみにお前の答えの、ニンゲンの潜水最長記録はおよそ25分だな。
一番『長息』なのはクジラでしたー♪♪



くっだらねぇ!!
普通、一番『長生き』って意味に取るでしょ!!
そもそも俺ぁクジラなんぞに興味はねぇっす!!
イルカさんが好きです。シャチさんはも~っと好きです♡
の気持ちで、今まで生きて来たんですわ!!



あはは。なぞなぞだって最初に言っただろ?そう怒るな。それに長生きの話で言っても、ホッキョククジラは200年生きたって話もあるそうだ。
いずれにしても答えはクジラだ。
それにな?お前の言ってたイルカやシャチってのも生物学的にはイルカイナイカ怪しいもんだぞ?
ただのサイズの話?クジラとイルカの違い
前段で少々大袈裟に風呂敷を広げましたが、正確に言うと、「イルカは生物学的には居ない」ではなく、「イルカは分類群として独立していない」という事です。
では、クジラとイルカはいったい何が違うのでしょうか。
実は、「クジラ」と「イルカ」は、生物学上まったく別のグループではありません。
どちらも「クジラ目」と呼ばれるグループに含まれる動物で、さらにその中でも歯を持つ「ハクジラ類」に、イルカと呼ばれる仲間がたくさん含まれています。
つまり、
イルカはクジラではない。
……というより、
イルカもクジラの仲間です。
「クジラ」と「イルカ」を分けているのは、必ずしも生物学上の明確な境界ではありません。一般的には、比較的大型のものを「クジラ」、小型のものを「イルカ」と呼ぶことが多いのですが、これはあくまで私たち人間が付けた呼び名です。
そのため、「何メートル以上ならクジラ、何メートル以下ならイルカ」という単純なサイズの線引きがあるわけでもありません。
さらにややこしいことに、名前に「クジラ」と付いていても分類上はイルカの仲間だったり、逆にイルカと呼ばれていてもクジラ類の中の別々の系統に属していたりします。
代表的なのがシャチです。
「シャチ」と聞けば、イルカとは別の生き物だと思う方も多いでしょう。
ところがシャチは、分類上はマイルカ科に属するイルカの仲間です。
つまり後輩Kが、
「イルカさんが好きです。シャチさんはも~っと好きです♡」
と言っていたわけですが……。



お前、好きなものを別々の生き物だと思ってただろ。
どうやらクジラの世界は、私たちが思っている以上にややこしいようです。
そして、ここで一つ面白いことが分かります。
「クジラ」と「イルカ」は、見た目や大きさでなんとなく区別しているだけなのに、実際の進化の歴史をたどってみると、彼らはみんな同じ大きなグループの中にいる。
つまり私たちが「クジラ」と呼んでいる動物たちは、最初から海にいたわけではありません。
その祖先をずっとたどっていくと、なんと陸上を歩いていた哺乳類に行き着きます。
では、いったい彼らはいつ、どうやって海へ進出したのでしょうか。
ここから先は、クジラの「現在」ではなく、クジラになる前の物語です。
クジラの祖先は「陸を歩く生き物」だった



今の先輩の話からすると、昔は地上をあんなデカいのがウロウロしてたって訳ですか!?そら邪魔くさいったらないっすね!!
念願の新築戸建てのマイホームもぶっ壊されそうだ!!



あはは。そんな訳あるか!
実はクジラの祖先はもう少し控えめだったんだ。じゃあ、クジラのご先祖様がどんな姿をしていたのか、ちょっと見てみようか?
考証①:これがクジラの先祖パキケタス
さて、クジラのご先祖様とは、いったいどんな姿をしていたのでしょうか。
約4,800万年前、現在のパキスタン周辺に生息していたとされるのが、パキケタスです。
その姿はというと……。
※【パキケタス近影(想像図)】





……先輩。これ、本当にクジラなんすかっ!?



そう。れっきとしたクジラ類のご先祖様だ。



いやいや!!こりゃどう見ても、ちょっと顔の長い犬っころに毛のはえたようなヤツじゃないすか!!
いえ。そりゃ、犬っころには毛ぇ生えてますがね。



今は犬の体毛を語る時間じゃない!
この想像図から普通に水辺をスタスタ四本足歩行していた様子が見て取れるだろ?
現代のクジラからは想像もつかない姿ですが、パキケタスの化石には、クジラ類に特徴的な耳の骨が確認されています。
つまり、姿かたちはまるで違っていても、骨格の中には「クジラにつながる証拠」がちゃんと残っていたわけです。
そしてここから、クジラの祖先たちは少しずつ水辺へ、水中へと生活の場を移していきます。
陸を歩いていた動物が、やがて海を泳ぐ巨大な生き物になる。
クジラの進化は、ここから一気に面白くなっていきます。
考証②:新機軸!?鯨偶蹄目(げいぐうていもく)というグループ
パキケタスの化石から、クジラが陸上哺乳類から進化してきたことが見えてきました。
ところが、クジラのルーツを探る手がかりは、化石だけではありません。
今度はDNAです。
DNAを調べてみると、とんでもないことが分かってきました。
なんとクジラは、これまで別々のグループとして扱われてきたウシやブタ、カバなどの偶蹄類と、遺伝的に非常に近い関係にあるというのです。



えっ!?クジラと牛とブタ全然違うじゃないっすか!!
さすがに俺ぁ騙されませんゼ!!



あはは。確かに見た目だけならそう思うよな。
クジラは海泳いでるし、牛は草原で草食ってる。ブタに至っちゃ向こうでブヒブヒ言ってるだけだし、共通点なんか見当たらないよな!
クジラは海を泳ぎ、ウシは草原を歩き、ブタは鼻で地面を掘っている。
どう考えても、同じグループには見えません。
ところがDNAを使って動物同士の「親戚関係」を調べてみると、これまでの分類を見直す必要が出てきました。
そこで現在の分類では、従来の偶蹄類とクジラ類をまとめた、
「鯨偶蹄目(げいぐうていもく)」という大きなグループが使われています。
つまり、クジラが突然「実は昔から偶蹄目でした!」となったわけではありません。
DNA解析によって、これまで別々だと思われていたグループが、実は共通の祖先を持つ近縁な仲間だったことが分かり、分類が見直されたのです。
そして、この鯨偶蹄目の中でも特にクジラに近い現生動物として知られているのが……
カバです。



バカなっ!!
あの、動物園で「なんかデカくて水辺にいるやつ」っていう、あのカバの事っすか!?



そう。そのカバだ。
しかし、くれぐれもカバをひっくり返さないように気を付けろよ?悪口になるからな。
こうして見てみると、クジラの進化はますます不思議です。
化石を調べれば、クジラの祖先が陸上を歩いていたことが分かる。
DNAを調べれば、現生動物の中ではカバがクジラに近いことが分かる。
化石と遺伝子。
まったく違う方法で調べても、クジラが陸上哺乳類の系統から生まれたことを示す証拠が出てくるわけです。
考証③:今もクジラに残る足の痕跡
さて、ここで一度、この記事の最初に出てきた話を思い出してみましょう。
そうです。
「クジラの体の中には、今でも足の骨の名残が残っている」
という、あの話です。



そういや、最初にそんな事言ってましたね。独特な耳の骨持つ俺ぁきっちり覚えてるっすよ!!



いや、こっちは忘れさせるつもりで話を広げたわけじゃないんだけどな。
てか、お前…。耳の骨すら独特な、馬の骨だったのか?(笑)
実は、現在のクジラの体内には、かつて後ろ足を支えていた骨格の名残が残っています。
代表的なのが、骨盤にあたる小さな骨です。
さらに種類によっては、大腿骨や脛骨に相当する小さな骨が見つかることもあります。
もちろん、現在のクジラに歩くための後ろ足があるわけではありません。
これらは、進化の過程で後ろ足としての役割を失いながらも、体の中に残された痕跡器官の一例とされています。
つまり、クジラの体を調べてみると、
「昔、この動物には後ろ足があった」
という証拠が、現在の体そのものに残っているわけです。



でも、それって単なる骨の残骸じゃないんですか?



その「残骸」が、進化を考えるうえではものすごく重要なんだよ。
例えば、そうだな…。お前の腰とおしりの境目を触ってみろ?
ほら?尻尾の痕跡があるだろ?



ハッ!!尾てい骨っ!!
ここまで見てきた証拠を並べてみましょう。
まず、化石。
パキケタスのような初期のクジラ類には、陸上を歩いていたことを示す特徴が残っています。
次に、DNA。
クジラ類は陸上哺乳類の系統に属し、現生動物ではカバが特に近縁であることが分かっています。
そして最後が、現在のクジラ自身の体。
そこには、かつて後ろ足を持っていたことを思わせる骨の痕跡が残っています。
化石。遺伝子。そして、今を生きるクジラの体。
違う角度から調べても、同じ「クジラはもともと陸上哺乳類だった」という進化の物語が浮かび上がってきます。
海を悠々と泳ぐ現在のクジラ。
その体の中には、遠い祖先が陸上を歩いていた時代の名残が、今も静かに残っているのです。
さて、以上で考証は出そろいました。
同じような祖先から枝分かれしたのなら、なぜクジラは海へ行き、カバは陸に残ったのでしょうか?
次は、いよいよその「分かれ道」の話です。
なぜカバは陸に残り、クジラは完全に海へ行ったのか
さて、分かれ道にたどり着いた先に、大きな『そもそも論』が横たわっています。
「じゃあ、なぜクジラは海へ行って、カバは陸に残ったんだろうか?」



そうっすよ!
同じような祖先から分かれたんだったら、片方だけ海に行くって、なんか不思議じゃないですか?



確かに不思議だよな。何故こうも活動フィールドが分かれたかと言うと…。
実はまだ、はっきりとは分かっていない。



はぁ!?散々クジラの進化を説明しておいて、肝心なところわ分かんねぇってふざけてるんっすか!?



まあ、お前がそう怒るのも無理ないな。だがな?実際のところ、進化の「結果」は化石などからかなり分かっている。
でも、「なぜその道を選んだのか」となると、話は一気に難しくなるんだ。
現在のところ、『何でクジラは海に行っちゃった問題』には、いくつかの説があります。
その中でも重要なのが、当時の環境です。
クジラ類の祖先が暮らしていた頃、現在のインド亜大陸はアジア大陸へ衝突しつつあり、その周辺には浅い海や水辺が広がっていました。
つまり、クジラの祖先にとっては、
「海へ行こう!」
と壮大な決断をしたというより、たまたま身近にあった水辺という環境を利用する機会があったとも考えられるわけです。



なるほど。
じゃあ、海に行ったほうが暮らしやすかったんすかね~?



それも、そう単純には言えない。
当時の陸上では生存競争が激しく、食べ物をめぐる競争などから、水辺や水中という比較的競争相手の少ない環境へ進出した可能性も考えられています。
要するに、
「海のほうが快適だったから」
という一言では片づけられないんです。
地理的な条件。
食べ物。
生存競争。
そして、その環境でたまたま有利だった身体的な特徴。
そうしたさまざまな条件が重なり、少しずつ水辺で過ごす時間が増え、やがて水中生活への適応が進んでいったと考えられています。
しかも、ここでもう一つ面白いことがあります。
私たちは現在のカバを見ると、
「カバって、もともと水辺の動物だったんでしょ?」
と思いがちです。
ところが、クジラとカバの共通祖先が、最初から現在のカバのような半水生動物だったとは限りません。
クジラとカバは、共通の祖先からそれぞれ別の道をたどり、その後の環境に適応しながら現在の姿へと進化していったと考えられています。
つまり、
クジラは海へ。
カバは陸へ。
その分岐には、最初から決められた「進化の正解ルート」があったわけではありません。
その時代の環境と、生き残った者たちの積み重ねによって、少しずつ道が分かれていったのでしょう。
そして、これは進化の面白いところでもあります。
「なぜそうなったのか」は、結果だけを見ても完全には分からない。
化石を調べ、DNAを調べ、それでもなお「なぜ?」が残っている。
クジラとカバがたどった道のりは、まだ研究の途中なのです。
編集後記:クジラは海へ、カバは陸へ。そして私は……
今回調べてみて分かったのは、クジラとカバは、見た目こそまったく違うものの、遠い祖先を共有する近縁な仲間だということでした。
クジラの祖先は陸上を歩き、そこから水辺へ、そして海へと生活の場を移していきました。
一方のカバは、陸上を生活の中心に残しながら、水辺という環境にも適応しています。
なぜクジラは海へ行き、カバは陸に残ったのか。
その答えは、まだ完全には分かっていません。
ただ、そこには環境や食料、生存競争など、さまざまな条件が重なっていたと考えられています。
つまり、進化というのは、
「こっちが正解!」
と誰かが決めて進むものではない。
その時々の環境の中で、生き残ったものが少しずつ姿を変え、結果としてまったく違う道にたどり着く。
そう考えると、なんだか人間にも通じるものがあるような気がします。
世の中には、
「この環境に適応できる人が優秀」
「変化についていける人が強い」
なんて話があります。
でも、クジラとカバを見ていると、必ずしもそうとは限らない。
海へ行って、海に完全適応したクジラがいる。
一方で、陸を主な生活の場としながら、水辺にも適応したカバがいる。
どちらも、それぞれの環境で生き残ってきた。
だったら人間だって、
「自分は時代に完全適応できていない」
なんて、そこまで気にする必要はないのかもしれません。
環境が変われば、適応の仕方も変わる。
海へ行く人もいれば、陸に残る人もいる。
水辺を行ったり来たりする人がいたっていい。
……ということで、私は今日も陸にいます。
だって海、泳げないんだもん。(かなづち)






