おかあさんといっしょ小野あつこさんの6年間|コロナ禍の試練と「座長」への覚醒の奇跡

音楽ステージでベルを持つハシビロコウのイラストと記事タイトル『小野あつこさんの6年間|コロナ禍の試練と「座長」への覚醒の奇跡』

皆さん、こんにちは。「NHK考古学」でおなじみの けだま。 です。本日は第21代うたのおねえさん・小野あつこさんについて掘り下げていきたいと思います。

歴代うたのおねえさんの中でも、彼女ほど激動の運命に翻弄され、そして見事に立ち向かったおねえさんは他にいません。

絶対的エースだった前任・たくみおねえさんの卒業に伴う特殊なプレッシャー(※詳しくはこちらから)。

愛される「妹キャラ」から番組を引っ張る「座長」への覚醒。そして、容赦なく襲いかかったコロナ禍という未曾有の試練――。

持ち前の明るさと気高きプロ根性で、激動の6年間を全力で駆け抜けたあつこおねえさん。その足跡をたどるとき、当時の番組を知る私たちは、今なお涙を禁じ得ません。

それでは、彼女が紡いだ「まほうのような6年間」の歴史を、当時の空気感とともに紐解いていきましょう。

目次

初々しいデビューと、たくみロス

世間が『バスタ新宿の開業』や『電力自由化』といった新しい時代の幕開けに浮き足立ち、

テレビをつければトランプ旋風や芸能ニュースの狂騒が流れていた2016年4月4日

その日の朝、Eテレのスタジオにもまた、激動の新時代が静かに、しかし強烈なプレッシャーと共に幕を開けようとしていました――

当日の放送は緊張と初々しさ全開の挨拶から始まり、おっかなびっくりといった感じでコーナーは進行。

そしてついに今月の月歌のコーナー。

『あおうよ!』

作詞:もりちよこ
作曲:速水けんたろう

寸評=「新しい春」を爆発させる王道ポップス 速水けんたろうおにいさん(第9代)作曲による、疾走感あふれる極上のキャッチー・メロディ。

「ここから新しい物語が始まる」というワクワク感を否応なしに掻き立てる、新おねえさんの門出にこれ以上ない王道曲です。

「3+1」が生み出す、奇跡的なハラハラ感

すでに完成されたベテラン3人(だいすけ・よしひさ・りさ)の圧倒的な安定感の中に、初々しいあつこおねえさんが飛び込んでいく構図のこの曲。

その弾けるような「キャピキャピ感」と、見守る側の「がんばれ…!」というハラハラ感が絶妙なスパイスとなり、当時のスタジオにしかない唯一無二の熱量を生み出していました。

私は、まほうの幕開けにはこれ以上ない素晴らしい名曲だと感じましたが、世間の評価は必ずしも好意的な意見ばかりではありませんでした。

高すぎる、たくみの壁

第一回放送を終えてネット界隈では好意的な意見がある反面

・まだまだたくみおねえさんに及ばない
・悪くないんだけど、たくみお姉さんに比べると…。

といったネガティブな意見も散見されました。

ここで注意深く読み解いていただきたいのが、ネガティブな意見の主語があつこおねえさんではなく、たくみおねえさんと比べると…。ということです。

興味深いのが、実はこの○○おねえさんと比べると…。という意見はどのおねえさんも漏れなく受けて来た通過儀礼であるということです。

実際、たくみおねえさんもしょうこおねえさんと比較されてきたし、しょうこおねえさんもりょうこおねえさんと比較され…。って具合です。

こうしてとにもかくにも始まった、あつこおねえさんのうたのおねえさんヒストリーも一年後に大きな転機を迎えます。

涙の継承、託されたバトン。~だいすけおにいさん卒業記者会見

あつこおねえさんにとって大きな…。本当に大きい転機になったのが、2017年2月17日に行われた「横山だいすけさん卒業記者会見」です。※出典(NHK発表/各社報道など)

自ら申し出ただいすけおにいさんの卒業

会見でだいすけおにいさんは「僕の方から卒業させてください。」と願い出た。と語りました。

9年目を迎えるにあたり、東日本大震災を経て「歌で元気を届ける」という自身の中の目標をやり遂げたこと、そして次世代にバトンを繋ぐ時期を自ら熟考しての決断であったことが語られています。

そして、この会見の中でだいすけおにいさんから見た、あつこおねえさんの変化をこう語っています。

Say! good-bye〜明日をみつめて〜

Say! good-bye〜明日をみつめて〜

作詞・作曲: 速水けんたろう
編曲: 赤坂東児


寸評=別れを歌ったバラードであり、現在は「卒園ソング」としても広く親しまれている名曲。

奇しくもこの曲も前出の「あおうよ!」と同じく速水けんたろうおにいさんの作曲。

だいすけおにいさんが語ったのが、2016年11月の秋のファミリーコンサートでの出来事。

このコンサート終盤で歌われたバラード曲が
Say! good-bye〜明日をみつめて〜でした。

この曲を歌っている最中、あつこおねえさんと子どもたちが心を通わせている姿をステージ上で間近に見たとき、だいすけおにいさんは

「あ、もう(自分が引っ張らなくても)大丈夫だな」

と、心から安心したと語っています。

覚悟のなみだ

この会見であつこおねえさんはこう語っています。

「だいすけおにいさんが子どもたちと接している姿を見て、私には子どもたちに何ができるのか、何が伝えられるのか考えるようになりました。」

「だいすけおにいさんから教えてもらったことを、花田さん(次のうたのおにいさん)にも伝えていきたい。」

涙を流しながらも、しっかりと前を向いて語った言葉です。

特に「だいすけおにいさんから教えてもらったたくさんの宝物を、新しく入る花田(ゆういちろうおにいさん)さんにもしっかり繋げていきたい」という主旨の発言。

これは彼女がこの時、受け身の新人から「番組の伝統を繋ぐ当事者(=座長への第一歩)」へと意識が変革した瞬間だと私は感じました。

涙ながらの会見。濡れた瞳の奥に「次は自分が継ぐ」という覚悟の炎が宿っていたと感じたのは私だけではないはずです。

ここから、彼女の「座長」への本当の第一歩が始まったのです。

花開いた「あつこイロ」

『きみイロ』

作詞・作曲:えだまめンズ

寸評=子どもの個性を全肯定する、令和の優しきメッセージソング。

卓越したメロディと重厚なコーラスワーク(ファンの間ではGReeeeN説が噂されている。)に、

二人の圧倒的な歌唱のハーモニーが重なる、ゆうあつ(ゆういちろう・あつこ)コンビのひとつの到達点です。

だいすけおにいさんから魂のバトンを受け取り、新たな相棒=ゆういちろうおにいさんを得たあつこおねえさん。

当初は緊張した表情が印象的だった彼女も、この頃には肩の力が抜け、持ち前の明るさが随所で顔をのぞかせるようになりました。

ゆういちろうとの『ねイロ』(音色)

ゆういちろうおにいさんとあつこおねえさんとの歌声はとにかく相性が抜群でした。

あつこおねえさんの丸みを帯びた柔らかな歌声、ゆういちろうおにいさんの優しく包み込むようなテノール

二人がユニゾンになると、どちらか一方が前へ出るのではなく、一つの歌声になって溶け合っていくような心地よさがあります。

まるで二色の絵の具ではなく、一枚の水彩画を眺めているような、温かく優しいハーモニー。

このコンビだからこそ生まれた番組の「ねイロ」が、そこにはありました。

明るいミライクルクル!?

一方で、歌以外でも彼女は大きく変わっていきます。

子どもたちを笑わせるためなら、全力の変顔もためらわない。食べ物が登場すれば誰よりも目を輝かせる食いしん坊キャラ。

そして、後に伝説となるプリンセスミミィ。

デビュー当初のおしとやかな印象からは想像もできないほど、体当たりで番組を楽しむ姿がそこにはありました。

それは単なるキャラクター作りではありません。

子どもたちを笑顔にするためなら、自分の殻を破ることもいとわない。

そんな、あつこおねえさんらしいプロ意識が、少しずつ花開いていった時期でもあったのです。

『ミライクルクル』

作詞:もりちよこ
作曲:織田哲郎

寸評=新元号の幕開けと、福尾誠おにいさん・秋元杏月おねえさん加入の瞬間を彩った弾けるダンス・ポップス。

よしひさ・りさ卒業という大激震の中、あつこおねえさんが新人の体操コンビを「引っ張る側」へと回り、

名実ともに番組の「座長」へとポジションを変えたメモリアルな一曲です。

番組の大功労者、よし(よしひさ)おにいさん・りさおねえさんも卒業し、新戦力まことおにいさん(福尾誠)・あづきおねえさん(秋元杏月)を迎え入れた番組はますます好調。

あつこおねえさんも「座長」として、歌も、演技も、番組全体も、自分らしく伸び伸びと表現できるようになっていました。

「これからもっと面白くなる」。

誰もが明るいミライクルクルと信じて疑わなかった所に暗黒のめイロ(迷路)。番組史上未曾有の試練が訪れたのでした。

それは2020年初頭のことでした。

2020年コロナ禍~子どもの笑い声が消えたスタジオ

2020年。
「あつこおねえさんらしさ」が番組全体に浸透し、歌も演技も脂が乗ってきたその矢先、世界に新型コロナウイルスという未知なる大敵が襲い掛かりました。

当時の状況を覚えてるでしょうか?

連日、感染状況の報道が大きくされ、行動制限、3密の禁止。誰もが陰鬱な気持ちになり、街からは笑い声が消えました。

笑い声が消えたのは街だけではなく、おかあさんといっしょのスタジオでも同様でした。

子どもたちのいないスタジオ。

『おかあさんといっしょ』にとって、子どもたちの笑顔や歓声は単なる演出ではありません。

番組そのものを形作る、大切な共演者です。

その声が消えたスタジオは、それまでとはまったく違う景色になっていました。

歌詞あったの?ベルがなる!?

『ベルがなる』

作詞:山村浩二
作曲:櫻井映子

寸評=あつこおねえさん時代の後半戦、毎日の終わりを告げ続けた偉大なエンディングテーマ。

コロナ禍を境に「子どもたちと手を繋ぐトンネル」から「離れていても心は繋がるディスタンスのダンス」へと演出の激変を余儀なくされた、時代の象徴とも言える一曲です。

余談ですが、今までと全く違う収録になって私が一番驚いたのが、このエンディング曲「ベルがなる」です。

これまでは子どもたちとトンネルをくぐるため、テレビ版では短縮されていた中盤のアップテンポなパート。

実はそこにも素敵な歌詞があるのだと、コロナ禍による「フルサイズでの放送」という演出変更によって初めて知ることができました。

閉塞感に満ちた日々における、唯一の小さな発見だったかもしれません。

子どもが好きだからこそ

あつこおねえさんがうたのおねえさんを志したきっかけの一つには、学生時代に続けていた子どもたちとの交流やボランティア活動があったと語られています。

だからこそ、子どもたちと歌い、笑い、同じ時間を過ごせるこの仕事は、まさに天職だったのでしょう。

しかしコロナ禍はその当たり前を一瞬で奪いました。

目の前に子どもたちはいない。

コンサートは開催中止。

子どもたちの笑顔も、歌声も、拍手も返ってこない。

「届けたい相手」に直接届けられないという現実は、彼女にとってどれほど歯がゆかったことでしょう。

あつこおねえさんのまほうも消えかかりそうです…。

それでも、歌を届け続けた

無人のスタジオ。

静まり返ったコンサート会場。

出口の見えない日々。

あの頃は、大人でさえ先の見えない不安を抱えていました。

それでも『おかあさんといっしょ』は放送を止めませんでした。

画面の向こうには、外で思い切り遊ぶこともできず、不安な毎日を過ごす子どもたちがいます。

だからこそ、あつこおねえさんは、いつもと変わらない笑顔で歌い続けました。

その笑顔の裏側には、私たちには計り知れない葛藤やプレッシャーもあったのではないかと、今振り返ると思わずにはいられません。

そして、試練は終わらなかった

番組は少しずつ新しい形を模索しながら歩みを進めていきます。

けれど、この試練は決して短いものではありませんでした。

誰もが「当たり前」を失った時代。

その中心で、子どもたちに笑顔を届け続けた6年間は、デビュー当時には想像もしなかった重みを帯びていくことになるのです。

2022春~まほうのラララ♪~

2022年春。暗く長いトンネルのようなコロナ禍のただ中で、あつこおねえさんは6年間の任期を終え、卒業の時を迎えることになります。

プリンセスミミィの最終回

私が初めて見た時、その振り切れた。そしてぶっ飛んだキャラクターに衝撃を受けた、あつこおねえさんの代表キャラ・プリンセスミミィ。

プリンセスミミィ

あつこおねえさんが演じた、おてんばで個性全開のお姫様。

「音」をテーマにチョロミーたちと繰り広げるコミカルなコーナーで、全力の変顔と弾ける演技は、多くの視聴者に強い印象を残しました。

その最終回は別の意味でとても衝撃を受けました。※(以下・けだま。記憶による再現)

最終回。コーナー進行はいつものように始まりました。ひとしきり終わると、ミミィはみんなに話したいことがあると言いました。

子どもたちに言い聞かせるように、ゆっくりと話すミミィ


もっともっといろんな世界に音を探す旅に出ますの

遠い国にも行ってみたい

帰ってきたらまた遊びに来ますわね

みなさんと楽しい音でたくさん遊べて、とってもうれしかったですわ

ごきげんよう。

一言一句噛みしめるようなミミィの言葉。

一緒にコーナーを盛り上げあつこおねえさんと共に番組から卒業が決まっている、「うるさい」と定評のある(?)チョロミーもとても寂しそうに見えました。

私には、この最後のお別れのコメントを発しているときに、ミミィがこみ上げる涙をこらえて天を仰いでいるように見えました。

この瞬間だけはミミィのまほうが解けて小野あつこに戻ったように感じます。

音って本当に素晴らしい

これは、毎回ミミィが最後に語る決め台詞ですが、「もっともっといろんな世界に音を探す旅に出ますの」と旅立つことに、誰よりも音を大切にしてきた、あつこおねえさんの6年間とリンクしてテレビの前で号泣したのは私だけではないはずです。

最後の『まほう』〜笑顔で繋いだ未来へのバトン〜

いよいよ、あつこおねえさんの卒業の日。

残念ながら歴代のおねえさんたちのように、最終日にたくさんの子どもたちに囲まれ、直接手を握り合って「バイバイ」を言うことは叶いませんでした。

最後までディスタンスを保った、少人数のスタジオ。

しかし、そんな彼女が最後に遺していった卒業の月歌こそが、彼女の6年間のすべてを体現する、あまりにも美しい名曲でした。

『まほうのラララ♪』

作詞:冬野そら
作曲:加藤千晶

寸評=あつこおねえさん最後の月歌であり、激動の時代を耐え抜いたすべての親子に贈られた祝福の歌。

直接触れ合えなくても「ラララ♪と言葉にのせれば、心のまほうでいつでも繋がれる」というメッセージを、最高の笑顔で体現した誇り高きラストステージです。

画面の中であつこおねえさんは最高の笑顔で歌っています。しかし、暗く沈んだ異常事態。目の前の子どもたちはいつもの半分以下です。

けれども彼女の揺るぎない笑顔はカメラの向こう側、日本中のリビングには、自分の歌を待っている子どもたちが何万人もいる。そのことを誰よりも信じて疑わないかのようでした。

名実ともに「座長」となった彼女の、誇り高きラストステージ。

デビュー当時に囁かれた「先代と比べると……」という声は、もうどこにもありません。そこにあったのは、紛れもなく「小野あつこ」という唯一無二のうたのおねえさんが紡いだ、優しきまほうの世界でした。

託されたバトン

彼女が卒業した翌年、2023年春のスタジオには、かつてのようにたくさんの子どもたちの歓声と笑顔が完全にひしめき合う、あの「あたりまえの景色」が戻ってきました。

彼女がコロナ禍という未曾有の暗闇の中で、歯を食いしばり、決して笑顔の灯火を消さずに番組を守り抜いたからこそ、歴史は途絶えることなく次の世代へと繋がったのです。

最初の挨拶でおっかなびっくりだった彼女が、濡れた瞳の奥に宿した覚悟の炎。それは6年間、お茶の間を、そして子どもたちの未来を照らし続ける本物のまほうとなりました。

ありがとう、あつこおねえさん。

あなたが遺してくれた優しき「ラララ♪」の響きは、今も形を変えて、子どもたちの笑顔の中にそして、あの日必死に育児をした私たちの心の中に解けないまほうとして生き続けています。

(了)

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