「総工費3,200億円。私たちがこれから取り戻そうとしているのは、単なる『空』ではありません」4月3日は、東京のシンボル・日本橋が開通した記念日。
「すべての道の起点」として君臨するこの橋は、物理的な標高ではなく、日本の道路における「格」が最も高い場所です。
しかし、現代の私たちがその頭上に見上げるのは、かつての広重が描いた美しい青空ではなく、コンクリートの屋根でした。この記事では、免許を持たない100kgの巨漢後輩Kを助手席に乗せ、都内を西へ東へ爆走しながら、日本橋が背負った宿命と、未来へ繋ぐ「高すぎる景観投資」の価値を紐解きます。
読み終わる頃、あなたは日本橋を通るたび、今はまだ見えない「2040年の空」を想像して、少しだけ背筋が伸びる思いがするはずです。
皆さんこんにちは。今日今日とて西へ東へじっとしてない漂泊の旅人 けだま。です。
当ブログの住人たち(初めての方へ)―――

後輩K・
185cm/100kgの巨漢。素直なヤカラ。本日も盛大に勘違い中。



けだま。・
活字中毒の中年ハシビロコウ。IT音痴だが、歴史を語らせると長い。
後輩Kとの珍道中:日本で一番「高い」場所はどこ?
助手席で100kgの巨漢をふんぞり返らせる後輩K。 免許のない彼を乗せ、下道で都内を西へ東へ移動する車中、私はクイズを出しました。



今日これから通る場所で、日本で一番『高い』ところはどーこだ?



へっ!? 先輩、これから富士山にでも登るんスか?



あはは。そりゃ逆方向だ。正解は……
なぜ日本橋が「日本で一番高い場所」なのか?
実はこれ、物理的な標高の話ではなく、「日本の道路におけるステータスの頂点」という意味なんだ。
- 五街道の起点:
慶長8年(1603年)、徳川家康が江戸幕府を開いた際に全国の道路網の起点として定めたのがこの日本橋。
ここから東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道のすべてが始まっているんだ。- 距離の基準点:
今でも、道路標識に「東京まであと〇〇km」って書いてあるだろ?
あの「東京」の基準になっているのは、実はこの日本橋にある「日本道路元標(にほんどうろげんぴょう)」なんだよ。- 歴史の重み:
明治44年(1911年)4月3日に開通した現在の石造りの二連アーチ橋は、
ルネサンス様式の装飾が施されていて、
国の重要文化財にも指定されているよ



つまり、すべての道は日本橋から始まる。
いわば道路界の富士山。どうだ、日本一高い場所だろ?



……なるほど。物理的な高さじゃなくて格の話っスか。
一本取られたな〜。
でも先輩、それなら俺が助手席でふんぞり返ってるのも『王者の風格』ってことでOKっスよね?



……それはただの態度のデカさと、目方のデカさだろ。



そういや日本橋って、昔の絵にありましたよね。
東海道なんちゃら……ガキの頃、永谷園のカードで集めたヤツ。
確か、なんちゃらホウサイだっけ?



惜しい。北斎と言いたいんだろうが、正解は広重だ。



へっ!? ヒロスエ???



危なっ!!
何?そのプッツンな答え??
お前のせいで、アクセル踏んだままシートから落ちそうになったわ!
んで事故ってお巡りさんやって来て…
マジで『拘束5秒前』だぞ!
【解説】浮世絵の巨匠:広重と北斎の違いとは?
- 歌川広重(うたがわ ひろしげ):
今回の主役!『東海道五拾三次』で超有名だ。彼の特徴は、なんといっても「旅の空気感」。
雨や雪、風といった自然現象を情緒豊かに描くのが天才的で、欧州では「ヒロシゲ・ブルー」と呼ばれる美しい藍色が絶賛されたんだ。
『日本橋 朝之景』では、大名行列が橋を渡り始め、魚河岸の活気があふれる江戸の朝の風景をドラマチックに切り取っているんだ。- 葛飾北斎(かつしか ほくさい):
こっちは『富嶽三十六景』の作者。北斎は「風景」よりも「形」や「構図」のこだわりが凄いんだ。
あの有名な巨大な波(神奈川沖浪裏)のように、ダイナミックで斬新なデザインが持ち味。
日本橋を描いても、橋そのものより「そこから見える富士山」を主役に据えちゃうような、エッジの効いたクリエイターなんだ。
まとめると…
広重: 「旅の情緒」や「人々の暮らし」を描く、エモい風景画の巨匠。
北斎: 「斬新な構図」や「万物の形」を追求する、ストイックな天才絵師。
【江戸時代の日本橋の想像図】





ふーん。あー。はい。はい。
ごていねいなかいせつ、あざーす。



お前はっ! 人がせっかく説明してるのに!



さーせん。お茶漬けカード、もう集めてないんで。
俺、令和を生きてるんスよ。



岩塩かっ!
っていうくらい塩対応だな。お前は……。
そうこう話すうちに、車は日本橋を通過しました。



ほら、 お江戸日本橋を通過したぞ!



……えっ!? いつの間に!?
ずっと見てましたけど、ひとつも気付きませんでしたよ!
しょっぺぇ! しょっぱ過ぎるっスよ!
日本橋っ!!



バカ! 失礼なことを言うな。
重要文化財の二連アーチ橋だぞ!



なんか、『コレジャナイ感』が止まらんのです……。
なんか上に高速とか走ってるし…。



確かに、上空の高速道路は少し風情がないよな。
だが今、『空を取り戻そう計画』が進行中らしいぞ。
【解説】日本橋の空を取り戻せ!首都高地下化プロジェクト
後輩Kがガッカリしたその光景、実は今、歴史的な大転換期を迎えています。
- なぜ上に道路があるの?
1964年の東京オリンピック開催に向けて急ピッチで高速道路を作る必要がありました。
用地買収の時間を短縮するために、もともと公共のスペースだった「川の上」に道路を通したのが始まりです。
その結果、日本橋の美しい空が隠されてしまいました。- 「空を取り戻そう計画」の正体:
正式には「首都高速道路日本橋区間地下化事業」。
今ある高架橋を撤去して、道路を丸ごと地面の下(トンネル)に移してしまおうという壮大なプロジェクトです。- いつ空が見えるようになる?:
2020年から工事が本格的にスタートしており、高架橋が完全に撤去されて、日本橋から広い空を仰げるようになるのは2040年度の予定です。
完成すれば、江戸時代の広重が描いたような、あの情緒ある景観が現代に蘇ることになります。



ふーん。
で、それやるのに何円掛かるんスか?



ざっと、3200億円。



高っか!!
えっ!?
高っかっっっ!!!!



いや、だが広重の空を取り戻せるなら安いもんだ。



いやいやいやっ! !
そんなに江戸が好きなら、先輩一人でMajiで『大スキ』な500年前にタイムスリップして旅人やってきてくださいよ!!



……お前、5秒前から500年前まで飛ばしすぎだ。
しかも、500年前はまだ戦国時代だぞ。
編集後記:3200億円で買う「空」
かつて少年誌が40円で子供たちに「夢」を売っていた時代から、3200億円をかけて「空」を取り戻そうとする現代へ。
日本橋が背負ってきた「一番高い」の歴史は、私たちの価値観の変遷そのものです。
効率やスピードのために蓋をしてしまったもの。
それを、膨大なコストと時間をかけてでも取り戻そうとする。
この一見「無駄」とも思える執念にこそ、文化の成熟と、次世代への本当の贈り物が隠されている気がしてなりません。
広重が描いたあのヒロシゲ・ブルーの空が戻る2040年……。
その頃、私は何歳になっているのか。計算するのが恐ろしくもありますが……。
願わくば、「人生二周目」を疑うほど大人びた一言を放つ娘が、本当に大人になった時。
私が隠居して本物の「漂泊の旅人」になり、親子でその空を一緒に見上げたいものです。











